中年の今井が、かがみこんで老人の背に手をかけて、のぞきこんでいる。人見勉がタタミの部〔分〕にキチンと坐り、すくみあがっている。
[#ここで字下げ終わり]

今井 ……だから、いわない事じゃないんだ。これくらいな事で、転向するような大将なら、ぼくらも苦労しやしないさ。……(ノロノロと、人見に話しかけるような、話しかけないような調子でいうが、人見が口をパクパクするだけで答えないので、又つづける)憲兵隊でも、そうとうな目に逢ったようだし、ここへ来てからも、まあなんだね、以前の左翼の連中なんかよりや骨を折らせてるんだ。もう、とにかく、ぼくらもアグネきってるんだよ。実際めいわくな話さ。一体からいやあ、憲兵隊で、始末すればいい事だあ。警察へまわしてよこすなんて、筋ちがいだもんなあ。軍法会議へかけたりして処罰したりすると公けの問題になるし、外部に洩れると、国民の士気に関するからだというんだそうだがね。だって、警察に置いときゃなおのことだろう、第一、もう、工場でもみんな知ってるというし、家では町の者が石を投げてるというんだろう?いまさら外部に洩れるものじゃないかね。けっきょく、責任問題なんだね。自分た
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