腕ききは先ず居ないからね、会社としては惜しいのだが、まあ、あきらめてもらいたい。その方は問題ないとしてだ、弟だねえ、旋盤の方に居る、ええと――明君か。(義一のシルエットうなずく)片倉明。これにも、いちおう、引いてもらいたいんだ。工員たちには、この問題はかくしてあるが、でもみんなウスウス知って来たらしいね、若い者ばっかりだし、とにかく、この戦争に負けちゃならん、それには飛行機を一機でも多く、一刻でも早くと、みんなで火のようになっている最中だろう? そんな国賊が我が社から出たのは捨てて置けん、とまあイキリ立っている連中も居るんだ。その弟だからねえ。当人には責任はなくってもだ――二、三日前にも、明君を取り巻いて、なぐるといって騒いでいる連中が有ったりしてね。いやいや、兄きの事は別に表立って誰もいわないさ、その時も、衝突の理由は、なにか仕事の上の事さ、折よく私が行き合わせて、みんなをなだめてやったが――そんなわけで、いつなんどき、爆発するかわからない。そんなふうでは、旋盤部全体がうまいぐあいに行かんし、すると、この、大事な増産のジャマになる、第一、明君当人がおもしろくないだろう? そいで、まあ
前へ 次へ
全180ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング