をうかゞひに這ひ出して、そこでウロウロしつつ此方の方を見てゐるスミの姿である。
楽士「おい、あれは――?」
他の楽士「あゝ、ユリぢや無いかな?」
楽士達バラバラと走つて近寄る。スミ逃げ出す。
列車をめぐつてにげ廻るスミ。
崖くづれを取りのける仕事に加勢しようともしないで、ノソノソ列車の方に戻つて来た土方に逃げて来たスミがぶつゝかる。
土方はスミを認めて「あゝ、あんた。どうしたんだ?」
追つて来た楽士達が迫つて、やにわにスミを掴み、
「ユリ、貴様あ、よくも!」「さあ、もう逃しはしないぞ!」等々言ひながら、こづき廻す。しかし楽士達も直ぐに人が違つてゐることを発見する。身装はユリであるのに人はまるきり違つてゐるので、どう考へてよいか解らず、面喰つてゐるのである。
わけがわからず、スミと楽士達を見較べて黙つてヂロヂロ見てゐる土方。
楽士達がスミに、どうしてユリの洋服を着てゐるのかと問ふ。スミそれに答へようとして、しかし答へると事情がわかつて再びユリが危くなることに思ひ至り、口ごもり、返事をせぬ。楽士達、詰問する。そして土方に「――いえね、私等あ、昨日までC町で打つてゐた曲馬団の者なんですけどね、十七になるダンサーが一人ずらかつたんですよ。私等あそれを捜すのを言ひつかつて、昨日以来どれだけ骨を折つたか、わからねえんだ。そのユリと言ふ奴の洋服を此の人が着てゐるんで――」
土方「なんだか知らねえが、此の人なら怪しい者ぢや無え。ズーツと俺も道連れをして来た……」
スミ「おスミ……」
土方「おスミさん――だ」
楽士「しかし、ユリの洋服を着てるんだから、係り合ひが無えとは言はせねえ。とにかくE市までは一緒に行つて貰ひたいね。警察へ行きや、話して貰へようからね」
哀願するやうに土方を見るスミ。
土方は、「警察」と言つた相手の顔をヂロヂロ見てゐるだけでだまつてゐる。
楽士「いいね? 又にげ出しちや、困るよ」
スミ「へえ……」
○崖くづれを取りのける工事をやつてゐる一群の方から、烈しい男の悲鳴が聞えて来る。振返ると、その辺、立騒いでゐる人影(乗務員、刑事、青年、お若、その他)。
楽士連「あ、どうしたんだ?」
楽士達の中の三四人はバラバラとそちらへ走つて行く。
列車に戻つてゐた乗客連も再び現場へ走つて行く。
楽士の一人は、スミを見張つてゐな
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