れを覗いてゐる豚達の鼻づら。

 外は暗い。

 洋服を上手に着ることは諦めて、車掌室の隅に、小さくなり、心細くうづくまるスミ。

 列車の進行。

 スミがウトウトしてゐる。

 不意に停車する列車。
 動揺のためにハツと我に返るスミ。

 「どうしたんだ?」「どうした?」と客車の方で騒いでゐる声々。

 後部の豚に似た顔の車掌が、スミの箱の前をサツと駆け抜けて行く。

 驚ろいて、首だけ出してスミが前方を見る。
 カツと明るいのは、少し離れた前方の線路の傍に旺んな焚火が燃えてゐる上に、カンテラの光と、列車のヘツドライトが丁度その辺を照し出してゐるためである。一人の保線工夫(丁度見廻りに来て、線路の故障を発見して警報のために焚火をするのと同時に、故障をなほしにかかつてゐた者)が、此方に向つて両手を振り、怒鳴つてゐる。小さい崖くづれが起きて、線路上にかなり大きな岩が二三個、転がり落ちて来てゐるのである。

 列車の運転士をはじめ、火夫、車掌等その方へ走つて行く。乗客連も次々に降りて、ゾロゾロ見に行く。

 「今夜あ、悪いことに一人で出て来ましてねえ、此処まで来ると、これだらう! しまつたと思つて、保線課へ通知しようと思つても、此の辺、電話あ無しさ。弱つてね。いいあんべえに、金テコと鶴ハシはかついで来てゐるんで、小さい奴二つ三つはどけちやつたが、あとはどうにも重くつて手に負えねんだ。なあに、線路は大して痛んでゐねえから、どけさえすれば、車あ通れねえ事あ無えが、なんしても大き過ぎらあ」
 運転士「とにかく、君、次の駅まで走つてくれ」
 走り去る車掌。

 直ぐには修復出来さうも無い。乗客達ボヤく。「おやおや。こんな所で立往生か!」等々々々。
 刑事「困つたなあ。(運転士と工夫に)とにかく、どけるやうに、やつて見てくれないか」
 「えゝ、しかしこれだけ大きいんですから」
 刑事「ちよつ、しようがねえな、全く……」
 「済みません。一つやつて見ませう」云々。

 工夫と乗務員達が、金テコを岩の下に差しこみにかかる。

 大ボヤキにボヤいてゐる金持の紳士。

 運転士が乗客達にあやまり、とにかく、車室に戻つて待つてゐてくれと頼む。
 愚痴タラタラで車の方へ歩き出す乗客達。
 先頭に進んでゐた楽士の一人が、
 「おやつ!」と言つて車の方をすかして見る。
 それは車掌室から、様子
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