おスミの持参金
三好十郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)雹《ひよう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1−8−78]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)はら/\
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[#ここから1字下げ]

  スミ(花嫁)
  楠一六(花婿)
  鈴村彦之丞(スミの父親)
  信太郎(放火犯容疑者)
  お若(信太郎の恋人)
  土方(流れ者)
  区長
  旅商人(呉服小間物屋)
  刑事
  ユリ(サーカスのダンサー)
  乗合馬車の馭者
  サーカスの楽士達。村人達。
  軽便鉄道の乗客達。乗務員達。
  その他。

音楽  パストラール風に。

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
○村の誰彼れが昂奮した顔を突合せて、囁き合つてゐる。
 (戸外)
「鈴村の彦之丞がとけえ、電報が来たと?」
「なんだろか? 又大地震があつたんづろか?」
「去年の暮れ、森の喜六がとこの娘が紡績で機械に食はれておつ死んだ時、来たきりぢや。此の村さ電報来んのそれ以来だ」
「なんせロクな事あ無えぞな。電報来るようでは、もうはあ、彦之丞がとこも永え事は無えぞ」
「大水が出たのか? 戦争け?」これは駆け付けて来た男。
「あんだ、あんだ?」
「彦之丞がどうしたと?」とスツトンキヨーな声をあげたのはツンボの爺さん。
「電報が来たとよ!」
「雹《ひよう》が降つたのか? そいつは困つたのう」
「違う、電報じや」
「コロの値が出んのか? それはおいねえ!」
「まだ聞えねえ。電報だつ!」
「デンピだと?」
「電報つ!」
「デンピヨーかつ! ウーン」――爺さんが目をまはしかける。泳ぐ。

○それを追つてパンすると、中景に道路一杯に右往左往してゐる豚の群。
  その群の中に取りかこまれ、歩き悩んでゐる電報配達夫。カメラそれに近づく。

○親豚子豚とりまぜてヒシヒシと動きまはつてゐる。
 ブウブウ、ギイギイ、キユーツと鳴声。
「わーい!」配達夫叫んで、自転車を引きずる様にして、豚の背の波を踏み越え、すべり越えてメチヤメチヤに走り出す。
 しかし豚の群も同方向に向つて歩いてゐるので、なかなか抜け出られない。「助
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