匆々。
[#ここで字下げ終わり]
二十九日[#地から3字上げ]金之助
虚子先生
○
明治四十年十一月十日(封書)
[#ここから1字下げ]
先日は失礼。御依頼の序文をかきました。御気に入るかどうだか分りませんがまあ御覧に入れます。ゆうべ大体の見当をつけて今朝十時頃から正四時までかかりました。然し読み直して見ると詰らない。然し大分奮発して書いたのは事実であります。そこを御買い下さい。頓首。
[#ここで字下げ終わり]
十一月十日[#地から3字上げ]金
虚子様
[#ここから3字下げ]
当分序文ハカカナイ事ニシマス。ドウモ何ヲカイテ好イカ分ラナイ。然シアナタノ作ヲ読ムノハヒマガ入ラナカッタ。アレデハ頁ガ多クナリマセンネ。
[#ここで字下げ終わり]
○
明治四十年十一月十八日(葉書)
[#ここから1字下げ]
昨日は御馳走になりました。私は二十二[#「二十二」に白丸傍点]日入場の文芸協会の演芸会の特等の招待券をもらいました。(壱円五十銭)あなたはもらいませんか。もし行くなら一所に行きましょう。一人ならそんなに行きたくもない。
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[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治四十一年一月十日(封書)
[#ここから1字下げ]
昨日は失敬。「班女」には大弱りに弱り候。さて本朝本間|久《ひさし》と申す人別紙原稿をよこし『ホトトギス』か『中央公論』へ周旋してくれぬかとの依頼故、まず以て原稿を供貴覧候。御気に入り候わば御掲載の栄を賜わりたく候。本人の申条に曰く。ある雑誌記者曰く、本間久は飜訳ばかりして創作は出来ぬ男だと。これに於てこの作ありと。即ち敵愾心《てきがいしん》の結果になれるものと覚候。原稿の価値は大したものにあらず少々物足らぬ様也。然し折角の希望故御紹介致し候。以上。
[#ここで字下げ終わり]
正月十日[#地から3字上げ]金
虚子方丈下
○
明治四十一年二月七日(封書)
[#ここから1字下げ]
啓上 謡本五冊わざわざ御持たせ御遣わし御懇切の段感謝致候。小生万事不案内につき御仰の通り宝生先生と相談の上御指定のうちを願い可申候。今夜「班女」は少しにて済む事と存候。もし御都合もつき候えば御入来御両人にて一番御謡あらまほしく候。まずは御礼まで。匆々。
[#ここで字下げ終わり]
二月七日[#地から3字上げ]金
高浜様
○
明治四十一年二月十六日(封書)
[#ここから1字下げ]
拝啓 青木健作氏論文拝見致候。『ホトトギス』へ掲載の儀は如何様にてもよろしかるべきか。是非共のせるべきほどの名論文とも存じ不申。然し載せては『ホトトギス』の資格に害を与うるとは無論思い不申候。昨日青年会館にて演舌、今日これを通読。問題が大に似たる処有之興味を感じ申候。以上。
[#ここで字下げ終わり]
二月十五日[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜老兄
○
明治四十一年二月二十四日(葉書)
[#ここから1字下げ]
『朝日』の講演速記は未だ参らず。如何なり候にや。かかりは中村翁に候。金曜に皷を以て御出結構に存候。渇望致候。『ホトトギス』へ出す時には訂正致し度と存候。時間がアレバアアイウ者デマトマッタモノヲ書キ度候。
[#ここから3字下げ]
皷打ちに参る早稲田や梅の宵
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治四十一年三月十四日(葉書)
[#ここから1字下げ]
今日の「俳諧師」は頗る上出来に候。敢て一葉を呈して敬意を表す。頓首。
[#ここで字下げ終わり]
三月十四日[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治四十一年三月十六日(葉書)
[#ここから1字下げ]
藪柑子《やぶこうじ》先生「伊太利人」と申す名作を送り候。木曜に御出なければ締切に間に合うよう取りに御寄こしか、此方より御送致す事に致候。小生演説は明日位から取りかかる考に候。今夜御都合にて□衣御懐中可然候。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治四十一年三月十七日(葉書)
[#ここから1字下げ]
拝啓 講演をかきかけて見ましたら中々長くなりそうですがよろしゅう御座いましょうか。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治四十一年三月十九日(封書)
[#ここから1字下げ]
拝復 ページ数相分り候とよろしく候えどもまだ判然不仕。定めて御迷惑と存候がいくら長くてもよしとの御許故安心致、可相成全速力にて取片附一日も早く御手元へ差出し度と存候。御風邪《ごふうじゃ》まだ御全快無之由存分御大事に願候。本日の面会日は謝絶致候。近来何となく人間がいやになり。この木曜だけは人間に合わずに過ごし度故先達失礼ながら御使のものにその旨申入候。もっとも謡の御稽古丈は特別に御座候。呵々。
鏡花露伴両氏の作ただ今持ち合せず。『草迷宮』は先達て森田草平持ち帰り候。『玉《たま》かづら』は最初より無之候。近日来の「俳諧師」大にふるい居候。敬服の外無之候。ますます御健筆を御揮い可然候。以上。
[#ここで字下げ終わり]
三月十九日[#地から3字上げ]金之助
虚子様
○
明治四十一年三月二十四日(封書)
[#ここから5字下げ]
出来るならば一欄に組んで頂きたいと思います。
題は「創作家の態度」と致して置きましょう。
[#ここから1字下げ]
拝啓。多分明日は出来るだろうと思います。十九字詰十行の原稿紙でただ今二百五十枚許かいて居ります。多分三百枚内外だろうと思います。明日書き終って一遍読み直して差し上げたいと思います。何だかごたごたした事が出来て少々ひまをつぶします。頭がとぎれとぎれになるものだから大変な不経済になります。頓首。
[#ここで字下げ終わり]
二十四日[#地から3字上げ]金之助
虚子様
[#ここから1字下げ]
御風邪は如何で御座いますか。
[#ここで字下げ終わり]
○
明治四十一年五月二十八日(封書)
[#ここから1字下げ]
拝啓
この手紙持参の人は宮沢|※[#「金+柔」、233−7]一郎《じゅういちろう》とて俳道執心のものに有之よし。今般四年がかりにて俳諧辞書編輯を了《お》え大倉書店より出版につき大兄の序文もしくは校閲願度旨にて参上仕候につき御面倒ながら御面会相願度と存候。本人は小生未知の人に候えども大倉書店よりの依頼にて一筆申上候。ただし大兄には運座の節一両度御目にかかり候由。まずは右当用のみ。草々不一。
[#ここで字下げ終わり]
五月二十八日[#地から3字上げ]金之助
虚子先生梧下
○
明治四十一年五月三十日(葉書)
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拝啓。木曜日には雨天にて御出無之。「俳諧師」頗る面白く候。十風が北海道へ行ってからが心配に候。あともどうかあの位に御振い可被下候。
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[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治四十一年六月三十日(葉書)
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今日の北湖《ほくこ》先生|磊々《らいらい》として東西南北を圧倒致し候には驚入《おどろきいり》候。欣羨《きんせん》々々。
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五月雨や主と云はれし御月並
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六月三十日[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清機[#「機」に「(ママ)」の注記]
○
明治四十一年七月十日(封書)
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拝復。小光《こみつ》はもっとさかんに御書きになって可然候。決して御遠慮被成間敷候。今消えては大勢上不都合に候。鼠骨《そこつ》でも今日の弥次郎兵衛《やじろべえ》の処は気に入る事と存候。「文鳥」十月号に御掲載被下候えば光栄の至と存候。十月なれば『東朝』へ承諾を求むる必要も無之かるべくと存候。「文鳥」以外に何か出来たら差上べく候えども覚束なく候。ドーデの「サッフォー」という奴をちょっと御読みにならん事を希望致候。名作に御座候。「俳諧師」の著者には大いに参考になるだろうと存候。
今日の能楽堂例により不参に候。明日御令兄宅の御催し面白そうに候。ことによれば拝聴に罷り可出候。小生「夢十夜」と題して夢をいくつもかいて見ようと存候。第一夜は今日『大阪』へ送り候。短かきものに候。御覧被下度候。盆につき親類より金を借りに参り候。小生から金を借りるものに限り遂に返さぬを法則と致すやに被存甚だ遺憾に候。おれが困ると餓死するばかりで人が困るとおれが金を出すばかりかなあと長嘆息を洩らし茲に御返事を認め申候。頓首。
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七月一日[#地から3字上げ]金
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鮟鱇《あんこう》や小光が鍋にちんちろり
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虚子先生座右
○
明治四十一年七月四日(封書)
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拝啓 また余計な事を申上て済みませんが小光入湯の所は少々綿密過ぎてくだくだしくはありませんか。小光をも描かず小光と三蔵との関係も描かず、いわば大勢に関係なきものにてただ風呂桶に低徊しているのではありませんか。そうしてその低徊がそれ自身に於てあまり面白くない。どうか小光と三蔵と双方に関係ある事で段々発展するように書いて頂きたい。そうでないと相撲にならない。妄言多罪。頓首。
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四日[#地から3字上げ]金之助
虚子先生
○
明治四十一年七月十一日(封書)
[#ここから1字下げ]
拝復 御ふささんは異存はなかろうと愚妻が申します。然し松根がもらいたいのですかあなたが御周旋になるのですか伺ってくれと申します。
御ふささんは妻のイトコです。貧乏です。支度も何もありません。以上。
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七月十一日[#地から3字上げ]金
虚子様
○
明治四十一年七月十二日(封書)
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又啓《ゆうけい》
あなたがこの事件で歩を御進めになれば自然松根に直接意見をきく事になります。そうすると公平を保つために私の方でも御房さんにその事を話さなければなりません。即ちあなたの思いつきで松根に向って御房さんをもらわないかと口をかける由と通知するのであります。それで本人が否《いや》だというたら直ぐ無駄な御骨折を御中止を願います。また異存なしと答えたら何分にも御面倒を願いましょう。ただ今愚妻留守につき帰り次第御房さんの考をきかせますから左様御承知を願います。頓首。
[#ここで字下げ終わり]
七月十二日[#地から3字上げ]金之助
虚子先生
○
明治四十一年七月十四日(封書)
[#ここから1字下げ]
謹白。
「私は無教育でありまして到底高等の教育を受けた人の奥様になる資格はありませんが――もう一年も仕事でも勉強して――」
御房さんがこんな事をもしくは之に類似した事を愚妻まで申し出たそうです。これに由ってこれを観ると謙遜のようにもあり、いきたいようにもあり、ちょっと分りませんな。然し否ではないんでしょう。そう手詰に決答を逼る必要もないから愚妻はよく考えなさいと申したら、御房さんはよく考えて見ますと申したそうであります。
右は小生の直接研究に無之候えども大体の見当は間違った愚妻の報知とも思われません。
右迄草々。
[#ここで字下げ終わり]
七月十三日[#地から3字上げ]金
虚子先生
○
明治四十一年七月二十三日(封書)
[#ここから1字下げ]
拝啓 別封「花物語」は寅彦より送り越し候もの。中には中々面白きもの有之出来得るならば八月の『ホトトギス』へ御出し被下度候。
新、旅行。小石川同心町の住人代稽古
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