かも知れないとなるとどうも苦痛でたまらない。もしあの子が死んで一年か二年かしたら小説の材料になるかも知れぬが、傑作などは出来なくても小供が丈夫でいてくれる方が遥かによろしい。到底「草枕」の筆法では行きません。「猫」の代正に頂戴難有候。漠然会なるものが出来るよし出られればいいが。
『新小説』は出たが振仮名の妙癡奇林《みょうちきりん》なのには辟易しました。ふりがなはやはり本人がつけなくては駄目ですね。
 もう九月になる。講義は一頁もかいてない。『中央公論』は何をかいたものやら時間がなさそうだ。これで小供の病気がわるければ僕は何も出来ない。『中央公論』には飛んだ不義理が出来る。
 然し交通遮断はちょっと面白い。あまり人がきすぎて困るからたまには交通遮断をして見たいと思います。
 野間《のま》先生が「草枕」を評して明治文壇の最大傑作というて来ました。最大傑作は恐れ入ります。寧ろ最珍作と申す方が適当と思います。実際珍という事に於ては珍だろうと思います。
[#ここで字下げ終わり]
   八月三十一日[#地から3字上げ]金
     虚子先生
      ○
明治三十九年九月三日(封書)
[#ここか
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