清様
○
明治三十九年八月十一日(葉書)
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拝啓 昨日の駄句「花嫁の馬で越ゆるや山桜」を、「花の頃を越えてかしこし馬に嫁」と致し候が御賛成下さい。これは几董《きとう》調です。前のと伯仲の間だと仰せられては落胆します。「御前《ごぜん》が馬鹿ならわたしも馬鹿だ、馬鹿と馬鹿なら喧嘩だよ。」今朝こういううたを作りました。この人生観を布衍《ふえん》していつか小説にかきたい。相手が馬鹿な真似をして切り込んでくると、賢人も已《やむ》を得ず馬鹿になって喧嘩をする。そこで社会が堕落する。馬鹿はなるほど社会の有毒分子だという事を人に教えるのが主意です。まず当分はこのうただけうたっています。小説にしたら『ホトトギス』へ上《あげ》ます。
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[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治三十九年八月三十一日(封書)
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先生驚きましたね。僕の第三女が赤痢の模様で今日大学病院に入院したという訳ですがね、ことによると交通遮断になるかも知れません。小供の病気を見ているのは僕自身の病気よりよほどつらい。しかも死ぬ
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