なくとも貸席など可然《しかるべき》か。これは御選定にまかせ候。そうなると公然会費を徴集する必要相生じ候。そうなると出るものが少なくなると存じ候。また報知の御手数も大兄を煩わす方がよくなって参り候。以上につき御考如何。ちょっと伺上候。毎日来客無意味に打過候。考えると己《おれ》はこんな事をして死ぬはずではないと思い出し候。元来学校三軒懸持ちの、多数の来客接待の、自由に修学の、文学的述作の、と色々やるのはちと無理の至かと被考候。小生は生涯のうちに自分で満足の出来る作品が二、三篇でも出来ればあとはどうでもよいという寡慾《かよく》な男に候処、それをやるには牛肉も食わなければならず玉子も飲まなければならずという始末からして、遂々心にもなき商買に本性を忘れるという顛末《てんまつ》に立ち至り候。何とも残念の至に候。(とは滑稽ですかね)とにかくやめたきは教師やりたきは創作。創作さえ出来ればそれだけで天に対しても人に対しても義理は立つと存候。自己に対しては無論の事に候。「一夜」御覧被下候由難有候。御批評には候えどもあれをもっとわかるようにかいてはあれだけの感じは到底出ないと存候。あれは多少分らぬ処が面白い
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