?)と申す温泉に入浴、同所にて越年《おつねん》いたし候。
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かんてらや師走の宿に寐つかれず
酒を呼んで酔はず明けゝり今朝の春
甘からぬ屠蘇《とそ》や旅なる酔心地《ゑひごゝち》
うき除夜を壁に向へば影法師
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 御大喪中とある故
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此春を御慶も言はで雪多し
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 一年の計は元日にありと申せば随分正月より御出精、明治三十一年の文壇に虚子あることを天下に御吹聴|被下度《くだされたく》希望の到りに不堪候以上。
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   正月五日夜[#地から3字上げ]漱石
     虚子君
  乍末筆御令閨へよろしく御鳳声願上候。

 不本意ながら俳句界に遠ざかったとあるのはどういう原因であったのであろう。私は氏の熊本時代の生活を審《つまびらか》にしないから分らない。この手紙の中にある俳句はどれも皆面白くない、当年の氏の俳句は決してこんなにつまらぬものではなかったと記憶する。二十九年から三十年頃私の手許に受取った句は私から子規居士に転送したり、そうでなければ当時私の受持って居った『国民新聞』の俳句欄に載せた
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