あります。それに夏目先生の下宿の跡を尋ねて廻って居った時先生に御目にかかるを得たのは如何に考えても不思議な運命だと思われます。それのみならず紹介していただいて一ヶ年の後夏目先生が死なれたという事がまた奇しく思われます。昨年十二月九日に死なれるのが天命であったとすれば、御生前に御目にかゝるために松山へ行きたいという心が三年の春に浮んだのであるかも知れぬと思います。考えれば如何にも妙です。どんな力が働いてこんな事が出来るのかちょっとも知れませぬ。しかし何はともあれ先生に紹介していただいた事は常に深く感謝しております。この冬休暇に帰って猟をして居るうち今日山鳥が一羽とれましたから御礼の印に御送り致します。ツグミではないから安心して食って下さいませ。
[#ここで字下げ終わり]
一月十日[#地から3字上げ]義雄
高浜先生
私から言っても丁度松山に帰っていて、然《しか》も以前漱石氏の寓居であった所に行っていた時に、渡辺君が漱石氏の寓居の跡を訪ねて来たということは奇縁といわねばならぬ。山鳥は早速調理して食った。旨《うま》かった。ツグミ云々《うんぬん》とあるのは漱石氏が胃潰癰《いか
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