態々《わざわざ》かいたものなり。僕の門下生からこんな面白いものをかく人が出るかと思うと先生は顔色なし。まずは御報知まで 艸々。
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   四月十一日[#地から3字上げ]金
     虚子先生座下
      ○
明治三十九年四月二十八日(葉書)
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 拝啓 毎月清国南京へ送って頂いた『ホトトギス』は今月から御やめにして下さい。大将事日本へ帰って参ります。どうか日本の東京の番地へやって頂戴。その番地はただ今ちょっと忘れた。
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[#地から3字上げ]夏目金之助
     高浜清様
      ○
明治三十九年四月三十日(封書)
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  啓
  一金参拾八円五拾銭也
  一金壱百四拾八円也
  計壱百八拾六円五拾銭也
 右は「吾輩は猫である(十)」及び「坊っちゃん」の原稿料として正に領掌仕候也。
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   四月三十日
[#地から3字上げ]夏目金之助※[#丸印、180−1]
     俳書堂雑誌部御中
      ○
明治三十九年五月十九日(封書)
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 虚子先生|行春《ゆくはる》の感慨御同様惜しきものに候。然る所小生卒業論文にて毎日ギュー。閲読甚だ多忙。随って初袷の好時節も若葉の初鰹《はつがつお》のと申す贅沢《ぜいたく》も出来ず閉居の体。しかも眼がわるく胃がわるく散々な体。服薬の御蔭にて昨今は腹の鈍痛だけは直り大に気分快壮の方に候。いつか諸賢を会して惜春の宴でも張らんかと存候えども当分|駄目《だめ》。ちょっと伺いますが碧梧桐君はもう東京へは来らんですぐ行脚にとりかかりますか。
 卒業論文をよんで居ると頭脳が論文的になって仕舞には自分も何か英語で論文でも書いて見たくなります。決して猫や狸の事は考えられません。僕は何でも人の真似がしたくなる男と見える。泥棒と三日居れば必ず泥棒になります。以上。
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   五月十九日[#地から3字上げ]金
     虚子先生
      ○
明治三十九年五月二十一日(封書)
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 拝啓 別紙の如き妙なものが参り候。筆者は木村秀雄とて熊本に住む人なれど逢うた事も話をしたこともなければ学生やら紳士やら知らず。ただ今論文校閲中にて熟読のひまも無之《これなく》ただ御高覧のために御廻し致候
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