る。三十一日の晩位に四方へ廻して一日から売りたかったですな。校正は御骨が折れましたろう多謝々々。その上傑作なら申し分はない位の多謝に候。『中央公論』などは秀英舎へつめ切りで校正しています。君はそんなに勉強はしないのでしょう。雑誌を五十二銭にうる位の決心があるなら編輯者も五十二銭がたの意気込みがないと世間に済みませんよ。いやこれは失敬。
僕試験しらべで多忙。しかも来客頻繁。どうか春晴に乗じて一日川があって帆懸舟の通る所へ行って遊びたい。それから東京座の二十四孝というものが見たい。今月は『新声』でも『新潮』でも手廻しがいい。みんな三月中に送って来た。これを見ても『ホトトギス』は安閑として居てはいけない。然しそれは漱石の原稿がおくれたからだと在っては仕方がない。恐縮。
藤村《とうそん》の『破戒《はかい》』という小説をかって来ました。今三分一ほどよみかけた。風変りで文句などを飾って居ない所と真面目で脂粉の気がない所が気に入りました。何やら蚊やら以上。
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四月一日[#地から3字上げ]金
虚先生
○
明治三十九年四月四日(葉書)
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「畑打ち」淡々として一種の面白味あり。人は何だこんなものと通り過ぎるかも知れず。僕は笹の雪流な味を愛す。ただ学士の妻になり損なったものが百姓になって畠を打つほど零落するのは普通でない。「小説家」という文はわる[#「わる」に傍点]達者である。「寮生活」も多少軽薄也。しかも両篇とも僕の文に似て居るから慚愧《ざんき》の至りだ。これにくらぶれば「素人浄瑠璃《しろうとじょうるり》」などの方遥かに面白し。
藤村の『破戒』というのを読んで御覧なさい。あれは明治の小説として後世に伝うるに足る傑作なり。『金色夜叉《こんじきやしゃ》』などの類にあらず。
五千五百部はうれましたか。五十二銭が高いと思ったら『明星』も五十二銭だ。随分思い切ったのが居る。その代り『明星』はうれません。
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四月四日[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治三十九年四月十一日(封書)
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拝啓 僕名作を得たり、これを『ホトトギス』へ献上せんとす、随分ながいものなり、作者は文科大学生鈴木三重吉君。ただ今休学郷里広島にあり。僕に見せるために
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