なつて、半ば眠つたやうな心持で時間を費すことも少くない。さう云ふ時に我等の気を引き立たせ我等の精神に鞭うつ或るものがある。それは外でもない、門前の小さい家に群生してゐる子供等で、此子供等は傍若無人に大きな声をして往来に活動して居る。往来は異論の申し立てやうもないが、我が発行所の門の所に四五人は愚か十人余りも佇んでゐて、それが喧々囂々《けんけんがうがう》として騒ぎ立てて居る。其中の三四人は並んで敷居に腰を掛けてゐるので、内から表の戸を開けようとしても開かぬ事がある。外から入つて来る時でもなかなかそこを退かうとはせぬ。いくら退けと云つても彼等は平然として腰を掛けてゐながら、じろじろと軽蔑の眼を以て人の顔を見て居る。時には表の戸を開けて庭の中まで闖入《ちんにふ》して来る事もある。彼等の親達はそれを見てゐて叱らうともしない。此方が表の戸を開けかねて困つてゐるのを見ても知らぬふりをしてゐる。発行所は六十坪足らずの地面に四十坪ばかりの建坪があるに過ぎないが、それがこの借家の並んでゐる中にあつては比較的大きい家なので、その小さい家に住まつてゐる人々の眼には、去年の嵐で倒れたのを仮修繕してゐる古びた板
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