章がそれで、それは当時の『ホトトギス』に載せ、『子規小品文集』中にも収めてある。
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九月十四日の朝
朝蚊帳の中で目が覚めた。なお半ば夢中であったがおいおいというて人を起した。次の間に寝ている妹と、座敷に寝ている虚子とは同時に返事をして起きて来た。虚子は看護のためにゆうべ泊ってくれたのである。雨戸を明ける。蚊帳をはずす。この際余は口の内に一種の不愉快を感ずると共に、喉《のど》が渇いて全く湿いのない事を感じたから、用意のために枕許の盆に載せてあった甲州|葡萄《ぶどう》を十粒ほど食った。何ともいえぬ旨さであった。金茎の露一杯という心持がした。かくてようように眠りがはっきりと覚めたので十分に体の不安と苦痛とを感じて来た。今人を呼び起したのも勿論それだけの用はあったので、直ちにうちの者に不浄物を取除けさした。余は四、五日前より容体が急に変って、今までも殆ど動かす事の出来なかった両脚がにわかに水を持ったように膨れ上って一分も五厘も動かす事が出来なくなったのである。そろりそろり脛と皿の下へ手をあてがって動かして見ようとすると、大磐石の如く落着いた脚は非常の苦痛を感ぜ
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