規居士の通称)泳ごうや。」
「乱暴しちゃいけないよ。」子規居士は重ねて言う。
「かまうものか。血位が何ぞな。どうせ死ぬのじゃがな。」と非風君は言う。
居士の病後のみを知って居る人は居士はあまり運動などはしなかった人のように思うであろうが、あれでなかなかそうでもなかったらしい。べースボールなどは第一高等学校のチャンピオンであったとかいう事だ。居士の肺を病んだのは余の面会する二、三年前の事であったので、余の逢った頃はもう一度|咯血《かっけつ》した後《の》ちであった。けれどもなお相当に蛮気があった。この時もたしか艪《ろ》を漕いだかと思う。ただ非風君ほど自暴《やけ》ではなかった。非風君の方が居士より三、四年後に発病したらしかったがその自暴のために非風君の方が先に死んだ。居士は自暴を起すような人ではなかった。
同勢三、四人で一個の西瓜《すいか》を買って石手川へ涼みに行き、居士はある石崖の上に擲《な》げつけてそれを割り、その破片をヒヒヒヒと嬉しそうに笑いながら拾って食った事もあった。
今の代議士|武市庫太《たけいちくらた》君の村居を訪うた事も覚えて居る。その同勢は子規、可全《かぜん》、碧梧桐
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