者がなければ空になってしまう。御承知の通り自分には子供がない。親戚に子供は多いけれどそれは大方自分とは志を異にしている。そこでお前は迷惑か知らぬけれど、自分はお前を後継者と心に極めて居る。が、どうも学校退学後のお前の容子を見ると少しも落着きがない。それもよく見ておるとお前一人の時はそれほどでもないが秉公――碧梧桐――と一緒になるとたちまち駄目になってしまうように思う。どちらが悪いという事もあるまいが、要するに二人一緒になるという事がいけないのである。それでこれからは断じて別居をして、静かに学問をする工夫をおし。出来ない人ならば私《あし》は初めから勧めはしない。遣れば出来る人だと思うからいうのである。」
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 こんな意味の事であった。余はこの日かく改まった委嘱《いしょく》を受けようとは予期しなかったので、少し面食《めんくら》いながらも、謹んでその話を聴いていた。かくの如き委嘱は余に取って少なからざる光栄と感じながらも、果して余にそれに背かぬような仕事が出来るかどうか。余は寧ろ此の話を聴きながら身に余る重い負担を双肩に荷わされたような窮屈さを感じないわけには行かなかっ
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