かんちょう》を試むるようになった。居士はその時余を手招きして医師は今何をしたかと聞いた。それが滋養灌腸であることを話した時に居士は少し驚いたようであった。その後《のち》になって居士は当時の心持を余に話したことがあった。
「滋養灌腸と聞いた時には少し驚いたよ。何にせよ遼東から帰りの船中で咯血し始めたので甲板に出られる間は海の中に吐いていたけれど、寝たっきりになってからは何処《どこ》にも吐く処がない、仕方がないから皆呑み込んでしまっていたのさ。それですっかり胃を悪くして何にも食う気がなくなってしまった。私は咯血さえ止まればいいとその方の事ばかり考えていたので、厭な牛乳なんか飲まなくっても大丈夫だと思っていたのだが、滋養灌腸を遣られた時にはそんなにしてまで営養を取らなけりゃならんほど切迫していたのかとちょっと驚かされたよ。」
 実際、これで滋養灌腸が旨《うま》く収まらなかったら、駄目《だめ》かも知れぬと医者は悲観していた。が、幸なことには居士はその以後|力《つと》めて栄養物を取るような傾きが出来て来た。
 医師から今晩は特に気を附けなければならんと言われた心細かった一夜は無事にしらしらと白ら
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