別に外交記者も置いてなかったので、通信種を引延ばせて面白くするのが専ら飄亭君らの役目であったらしく記憶して居る。例えば何月何日に雷《らい》が鳴って何とかいう家におっこちたという通信種を、その家の天水桶に落雷して孑孑《ぼうふり》が驚いたという風に書いて、その孑孑の驚いたという事が社中一同大得意であったかと記憶する。
 居士は朝起きると俳句分類に一時間ばかりを費し、朝寝坊であったから間もなく出社、夕刻、ある時は夜に入り帰宅。床の中に這入ってから翌日の小説執筆、十一時、十二時に至りて眼《ねむ》るというような段取りであった。そうしてこの床の中に這入ってからの小説執筆が遂に余の役目になって、居士の口授を余は睡魔を抑えつつ筆記しなければならぬ事になった。余は一方《ひとかた》ならず此の筆記に悩まされたものだ。「一日物語」はこの床の中での製作である。
「不折という男は面白い男だ。」と居士は口癖のようによく言っていた。「お前も逢って御覧、画の話を聞くと有益な事が多い、俳句に就いての我らの意見とよく似て居る。」
『小日本』紙上には不折君の画に居士の賛《さん》をしたものが沢山に出た。
 石井露月君が初めて入
前へ 次へ
全108ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高浜 虚子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング