社と極《きま》った時に、何でも居士は、
「僕の家《うち》に虚子という男が居る、遊びに行って見給え。」とでも言ったものと見える。居士の留守中に露月君は遣って来た。そこで余は座敷に火鉢を隔てて相対して坐った。余はこの時つくづく露月を変な男だと思った。シンネリムッツリで容易に口を開かない。そうして時々笑う時には愛嬌《あいきょう》がある。その時余は、
「君は天然が好きですか、人事が好きですか。」という質問を発した。それに対する露月君の答は、
「天然の中《うち》に在る人事、人事の中に在る天然が好きです。」というのであった。その頃から露月君は老成していた。そうして後年何かの紙上に、当時の余の質問の事を書いて、
「……というような大分早稲田|臭《くさ》いことを言われた。」と冷かしていたかと思う。
 この頃居士はもう今の家に移っていたのだが、棟続きの隣の家に松居松葉《まついしょうよう》君が一時住まっていた事があった。裏庭伝いに訪ねて来て雑談をして帰ったこともあったかと思う。また『早稲田文学』に何か俳句に関することを書いてもらいたいと言って島村抱月君が居士を訪問して来た事もあった。
 余はいつまで経《た 
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