ている。その前を自動車や電車が絶えず通るので、往来を通る人もせわしなくあぶなっかしく、余りそれ等に目をとめないが、よく見ると随分俗悪な派手な絵が掛け連ねてある。
 又その何々株式会社とある建物の一室に何とか理髪店というのが割拠《かっきょ》している。又「何とか食堂、グリルルーム」というのがある。
 それから反対の側の鉄道の下のガードには、その中に巣くうている店がある。之は浅草の仲見世の売店の下等のようなものである。洋品店、床屋、鮓店《すしてん》、天丼店、そば屋などが十四軒並んでいる。喫茶店と書籍店とが同居しているのもある。
 ここを通った時の感じは場末の盛り場といった感じである。東京の正門を出る二、三十歩で忽《たちま》ち場末の盛り場があるという事は一寸《ちょっと》珍しい現象である。
 それから丸の内ホテルの前あたりで電車道を横切って、朝鮮銀行の横手をはいると、総《すべ》てこの辺は震火に逢って見るもいたましいバラック建である。偶《たま》に大きな煉瓦建があると見ると、煉瓦の間にはさまれた石が火に焼けて無残に欠け落ちたままになっている。それ等の建物にも人が住んで仕事をしている。
 バラック建の
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