来るようになるかもしれぬ。」
「そうです。」とその男も微笑した。
そんな話をしているうちに食堂は人で一杯になった。その食堂の一テーブルはこんな惜別のまどいが比較的長く占領していた。
其所《そこ》らあたりを
或日の午後二時半頃から一時間ばかりのひまを得て、丸ビルを出てそこらあたりを歩いて見た。先ず東京駅降車口前に行く。ここに朝のうちは沢山に列を作って客待をしている自動車――ちょっと見ると百台近くもあろうかと思われる――も、今は三分の一位に減っている。
そこに一つの銅像が立っている。正二位勲一等井上勝君像とある。この人はわが国鉄道の初めの長官で創始時代の功労者と聞いている。その銅像の後は広い空地になっている。すでに数年前からここは鉄道省の敷地にきまっていると聞いているが、予算の関係でいつ建つかわからぬらしい。東京駅外が落寞《らくばく》としているのもこれ等が重な原因である。
それから永楽町の電車停留場の方へ行くと、左側のバラックには何とか活動写真株式会社とあって派手な絵看板が沢山掛け連《つら》ねてある。同じ棟の半分を占めている東京何々株式会社という前までその絵看板が連なっ
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