いたがわれ等が促すままに一同の中に加わった。
 食卓をめぐるものは都合で十人であった。
 その男に親しい俳人はいった。
「百姓をするのでしょうね。」
「そうです。」とその男は答えた。
 それから千何百円とかで二十五町の地面を買ったという事を話した。
「そうすると立派な地主だね。」と俳人は笑った。
「そうです。」とその男も淋しく笑った。以前出京した時分はこれ程までには思わなかったが、今度は何となくその言動が淋しかった。
「君、百姓が出来るのですか。」と俳人はこの男の容子《ようす》を見ながら危ぶむようにいった。
「出来るだろうと思います。」とその男は空しく口を開いて笑った。
 私はそのかぼそい細君を見た。弟というのも岩畳《がんじょう》という程ではなかった。
「何日かかります。」
「五十六、七日かかるそうです。」
「それ位で行けるのですか。」
「喜望峰を廻って行くとその位だそうです。」
「喜望峰!」と一同は皆又男の顔を見た。
「併し五十六、七日で行けるとすると遠いようでも近いものだな。もう少し飛行機が発達すると或は二、三日で行けるようになるかも知れぬ。ちょっと東京見物に帰って来るという事も出
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