ると矢も楯もたまらず、体裁も何もかまわず、かぶりつくようにして弁当飯を食うのを目撃する。即ちここで新旧文明が苦もなくかみ合う状態を目撃するのである。
大玄関
震災の時、私は鎌倉から横須賀まで歩いて、関東丸に乗って品川湾に著《つ》いた。その夜は風波が荒くて上陸が出来ず、或士官の紹介で軍艦|長門《ながと》に移って、はじめて安らかな眠りについた。陸地におれば絶えず余震におびえていたのが、海上に浮んでいる城の如き軍艦の上では、眠りを驚かすものは一つもなかった。人間は窮迫すると、その場限りの安易を求める。あす又陸地に上れば様々の恐怖すべきことに出あうのであるが、そんなことはどうでもよい。ただ一夜の安眠を得るということが、その時にあっては無上の慰楽である。
翌朝芝浦に上陸して見ると、右往左往に歩いている男女のそわそわしている状態は、鎌倉、横須賀辺に比べて更に甚《はなは》だしかった。それから芝公園に入った時避難民の群衆に驚かされて、公園を抜けてから、道の両側の焼尽された廃墟のあとに、まだぶすぶすと燃えているものがあるのを見た。
桜田本郷町を過ぎて警視庁、帝劇の焼けあとを見、いたる所
前へ
次へ
全49ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高浜 虚子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング