場を現出する。これは少し仰山な言葉かも知れんが、兎に角大変な混雑である。私はこの状態を毎日のように目撃しながら
「斯《か》くの如くもまれにもまれて、古いもの新しいものはだん/\調和して行くのだ。」と考えてニヤリとする。そのニヤリとしている私は、忽《たちま》ち人にぶっつかり、横にはねとばされ、元来小男の私は、忽ち群衆の中に没し去られて存在を失ってしまう。
漸く群衆の中から抜け出た私は、やっと食堂の片隅に椅子を見出してそこで空腹を充たす。弁当、すし、天どん、うなぎどんぶり、しるこ、萩の餅、そばなどの食堂もあれば、ランチ、ビイフステーキ、ポークカツレツ、蠣《かき》フライ、メンチボール、カツどんなどの洋食屋もある。この食堂になると、洋服に靴が跋扈《ばっこ》しているほど、洋食が跋扈していない。やはり日本人には祖先伝来の米の方が適しているらしい。そこで洋服の紳士(各事務室の重役連中は天辺《てっぺん》(九階)の西洋料理の方に天上するのだそうで、各階からここに天下るのは、主に雇人即ち洋服細民の部に属するということを誰かから聞いた。誰だ、洋服細民などというのは、よろしく洋服の紳士諸君と申せ)も空腹にな
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