郵便事務に敬服する。
 私は郵便物を自分で東京中央郵便局に持って行く事が屡々《しばしば》ある。中央郵便局はすぐ東京駅前にある。
 この中央郵便局というのは、震災前までも木造の粗末な建物であった。震災後は殊に一夜造りのバラック建である。
 表の戸からして粗末である。狭い入口が二つあって、その一つは開けっ放しになっている。沢山の人の出はいりに便宜なようにハンドルが細引か何かでしばりつけてあって一枚の戸が開いている。風がビュー/\吹き込んで寒いだろうが、局員はそんなことには頓著《とんちゃく》しないのである。
 郵便切手を売る口、書留、速達便を受取る口、普通郵便を受取る口などに分れているが、すべて敏活に無造作に取扱われる。
 書留、速達便の前には人の山を築いていることもある。私は速達便など持っていく時は、その山の後ろからポンと机の上に抛《ほう》りなげて、
「たのみます。」というと、局員は他の書留便などを処理している間でも、ちょっとそれを見てうなずいてくれる。そうして、他の書留便に移る寸隙を見て、切手の上に日付のスタンプを捺《お》して前の籠にポンと抛り込む。すべて敏活で無造作である。それがたのみ
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