光ったと同時に鳴りはためく音が聞こえた。それは光ると同時に聞こえたのであるから余程近くであろうと想像したが、併しその音はあつぼったいものを隔てて聞くようであった。この鉄骨のビルデングでは雨風の音が聞こえぬばかりか雷霆《らいてい》の響きさえそれ程に響かない。併し雨風が止んでいるどころか一層猛威をたくましくしていることは漸くこの雷霆のはためきで想像された。

    蝶

 丸ビルにいると、自然現象にはうとうとしくなる。雨が降り雪が降ること位は、窓ガラスを透しても知れぬことはない。併しそれとても十分にわからぬ時がある。(私の室から中庭ばかりを眺むるようになっているのである。)雨は降っていないと心得て表に出ると、ポチポチと落ちている事がある。
 その他雷霆のひらめく時位は漸くわかる。
 夕焼けの雲が赤くなっているのは、九階(精養軒のある所)の屋根の上の僅かの空でそれと知る。
 従って詩的材料には余りぶっつからない。
 鳥さえ余り眼に入らない。
 時には飛行機が飛ぶ。その爆音が聞こえるので窓に首を出して見ると、大空近く飛行機の飛んでいるのが見える。
 時には飛行船も来ることがある。魚とも鳥とも
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