は更にわからない。時々雨がざあ/\と窓のガラスに降りかかることがある位で、風などはどこを吹いているか一向にわからない。
室内には仕事に余念がないところへ、人がはいって来る。そうして表は大変な暴風雨だという。成程最前コウモリ傘をへし曲げられそうになったのを僅かにこらえて来た時のことを思う。向うを見ることも出来ず傘をつぼめて横しぶきの雨をよけていると、電車が来る、自動車が来る。漸く命がけでこの丸ビルに辿《たど》り著《つ》いた時のことを思う。
『相変らず吹いているか。』
『滅茶苦茶に吹いている。』
『そんなにぬれたのは傘をささなかったのか。』
『傘なんかさせるものか。』
そういった友達も暫くして、この室内の空気にならされて、風雨の事は忘れ去ったものの如く談笑に余念がない。そこへまた別の友達がはいって来る。その友達もまた風雨になやまされたらしい。また一時暴風雨の事が話題になる。
併しその友達もすぐ風雨の事は忘れたようになってまた談笑に余念が無い。
『まだ降っているだろうか。』
『さあ。』
『もう風は止んだのだろう。』
『そうさなあ。』
暫くしてからそんな事を話しているうちに忽ちピカッと
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