降になって来ると、止むを得ずカラコロ/\党になる。実際高下駄で石の階段を上り下りするのはあぶない。それにアスファルトの上などではすべって剣呑《けんのん》だ。それに第一ビルデングに上る時分などには一々上草履にはきかえねばならぬので不便だ。矢張り靴が便宜だ。一つ和服に長靴をはく事にしようかと思っているがまだ決行せずにいる。
 雪駄もだん/\改良される。丸ビルの一階の阿波屋で売っておるものなどの中には、だん/\小雨などにははいても差支《さしつかえ》ないものが出来て来るであろう。ビルデング通いの者の実際の必要から迫られて工夫して行くであろう。
 必要! その事が種々の工夫ともなり発明ともなり、又ついに新しい調和ともなって現れて来るのである。
 丸の内一帯の新文明?はかくの如くして※[#「酉+慍のつくり」、第3水準1−92−88]醸《うんじょう》されて来るのである。和服に長靴を穿いているうちには新工夫が出来るかも知れぬ。
 丸ビルにはいって敷煉瓦《しきれんが》の上を辷《すべ》らないように一分きざみに歩いて、漸く下足預かり所に行って上草履にかえる。そうして七階の一室におさまっていると、暴風雨の様子
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