にあるものは、何にかたどったものか知らぬがただ面白い。私の眼には意味が無く面白い。又度々引合いに出すが帝劇の屋根は翁の像のあった時代がよい。何故に震災後あれを撤去したのであろう。震火災に破損したためであろうが、何故に復旧して建てないのであろう。西洋建物にああいったものは不調和だという議論があっての事か。それなら第一あの舞台で在来の歌舞伎劇をやるのがおかしいという事になる。あの舞台に花道がとりつけてあるのがおかしいという事になる。第一在来の役者が演戯するのがおかしいという事になる。内部に平気でそれ等のものを採用して置いて、外部に翁の像だけがおかしいというのは頗《すこぶ》る不合理なことである。建築の上にもどし/\斯《かか》る大胆な試みを敢てして、単調を破るべきである。折角丸の内に建ち並んでいる屋根のうちで異彩を放っていたものを、一朝にして取り除いたことは誠に残念な事である。
上野から電車で来るにしても、西も東も見る限りバラック建の中を通って来て、突として丸の内に入ると、はじめて宏壮な建物を迎えて、何となく愉快な感じがするであろう。(宏壮な建物が櫛比《しっぴ》してあるといい度いが、場所によ
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