しかしながらわい小な家屋が乱雑に建っておるのを見ては、これが帝都かという浅ましい感じもまたしないことはなかろう。殊に芝浦あたりからのバラック建や、その間に残っている廃墟のような煉瓦の堆積を見ては、震災のあとのいつまで斯《か》くの如きかを嘆かわしく思うであろう。
 それが漸く新橋を過ぎて、わが丸の内にはいるとはじめて面目が改まって、やや帝都の帝都らしい感じがして来るであろう。
 比較的宏壮な建築物が整然としてある。今までに見て来たようなわい小なものとは選を異にしている。それ/″\の建物の屋根は大空に聳《そび》え立っている。
 高架鉄道になった今日から見ると、是等の建築の屋根が一番問題になる。それ等の旅人はもとより、日々通勤する人(遠くは逗子、鎌倉より、近くは大森、品川より)の眼を知らず識《し》らずの間に楽しませるものは、これ等の屋根の形状である。千篇一律のものでは飽く。俗悪怪奇なものは厭《いと》わしい。丸ビルの如き切り取ったような四角のものもあってよかろうが、又|参差《しんし》として塔の林立せるが如きものもほしい。それにしても、帝国ホテルの屋根は矢張り好もしい。屋根の中央に突立った棒の尖
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