るとそれ程にはいかぬ。上野からはいって来た方面はむしろ歯が抜けたように立っているという方が適切である。)
プラットホームに立って、顧みて日本橋、京橋方面を見ると、そこにも三越や、三井銀行や、日本銀行や、千代田ビルデングや、第一相互保険ビルデングやが、バラックの中に棒杭のように突っ立ているのが見える。遠からずそれ等の高層建築は垣の如く建ち並んで、わが東京もやがては欧米の都市を見るようになるであろう。丸の内に少しばかり建ち並んでいる建築を珍しそうにいうのも、今暫くの間であろう。
今遠く永田町に建っている議事堂の鉄骨を眺めると、何となく心強いような感じがする。
現在の東京はまだ震災のあとがまざ/\と残っていて、それ等の建築も上京して来た旅人の心を楽しまするには足らぬであろう。けれども汽車が東京駅に近づくに従って、その汽車に或は後《おく》れ或は先立ち、併行して突進んでいる幾多の電車が、悉《ことごと》く溢れるような人を満載していて、それ等の人は、東京駅に著くと、一時に川を決したように流れ出る容子《ようす》を見ては、たのもしい心を起さずには置くまい。それ等の人の個々の力はやがて新東京を建設す
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