ナ――ヨウ」
 スウスウと缺《か》けた歯の間から鼻唄を洩らしながら、土間から天秤棒《てんびんぼう》をとると、肥料小屋へあるいて行った。
「ウム、忰《せがれ》もつかみ肥料つくり上手になったぞい」
 善ニョムさんは感心して、肥料小屋に整然と長方形に盛りあげられた肥料を見た。馬糞と、藁の腐ったのと、人糞を枯らしたのを、ジックリと揉み合して調配したのが、いい加減の臭気となって、善ニョムさんの鼻孔をくすぐった。
 善ニョムさんは、片手を伸すと、一握りの肥料を掴《つか》みあげて片ッ方の団扇《うちわ》のような掌《てのひら》へ乗せて、指先で掻き廻しながら、鼻のところへ持っていってから、ポンともとのところへ投げた。
「いい出来だ、これでお天気さえよきゃあ豊年だぞい」
 善ニョムさんは、幸福だった。馬小屋の横から一対《いっつい》の畚《もっこ》を持ってくると、馴れた手つきでそのツカミ肥料を、木鍬《きぐわ》で掻《か》い込んだ。
「ドッコイショ――と」
 天秤の下に肩を入れたが、三四日も寝ていたせいか、フラフラして腰がきれなかった。
「くそッ」
 踏んばって二度目に腰を切ると、天秤がギシリ――としな[#「しな」
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