麦の芽
徳永直
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)善《ぜん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)益々|冴《さ》えて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ニョム[#「ニョム」に傍点]
−−
一
善《ぜん》ニョム[#「ニョム」に傍点]さんは、息子達夫婦が、肥料を馬の背につけて野良へ出ていってしまう間、尻骨の痛い寝床の中で、眼を瞑《つぶ》って我慢していた。
「じゃとっ[#「とっ」に傍点]さん、夕方になったら馬ハミ[#「ハミ」に傍点](糧)だけこさいといてくんなさろ、無理しておきたらいかんけん[#「いかんけん」に傍点]が」
出がけに嫁が、上《あが》り框《かまち》のところから、駄目をおして出ていった。
「ああよし、よし……」
善ニョムさんは、そう寝床のなかで返事しながらうれしかった。いい嫁だ。孝行な倅《せがれ》にうってつけの気だてのよい嫁だ。老人の俺に仕事をさせまいとする心掛《こころがけ》がよくわかる――。
しかし、善ニョムさんは寝床の中で、もう三日くらした。年のせいか左脚のリュウマチが、この二月の寒気で
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