ョムさんは今朝まだ息子達が寝ているうちから思案していた。――明日息子達が川端|田圃《たんぼ》の方へ出かけるから、俺ァひとつ榛《はん》の木畑の方へ、こっそり行ってやろう――。


   二

 畑も田圃も、麦はいまが二番肥料で、忙しい筈だった。――榛《はん》の木畑の方も大分伸びたろう。土堤《どて》下の菜種畑だって、はやくウネ[#「ウネ」に傍点]をたかくしとかなきゃ霜でやられる――善ニョムさんは、小作の田圃《たんぼ》や畑の一つ一つを自分の眼の前にならべた。たった二日か三日しか畑も田圃も見ないのだが、何だか三年も吾子《わがこ》に逢わないような気がした。
「もう嫁達は、川端田圃へゆきついた時分《じぶん》だろう……」
 頃合《ころあい》をはかって、善ニョムさんは寝床の上へ、ソロソロ起きあがると、股引《ももひき》を穿《は》き、野良着のシャツを着て、それから手拭《てぬぐい》でしっかり頬冠《ほおかむ》りした。
「これでよし、よし……」
 野良着をつけると、善ニョムさんの身体《からだ》はシャンとして来た。ゆるんだタガが、キッチリしまって、頬冠《ほおかむり》した顔が若やいで見えた。
「三国一の花婿もろうて
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