妾《あたし》も、信じますわ」
 こいつ、ぱっぱ女学生だ――野菊の花をまさぐりながら、胸のところに頭髪をよせてきたとき、三吉は心の中でさけんだ。
 ――もう、何ものこらなかった。病みあがりのような、げっそりした疲労だけがのこっていた。彼女と別れてすたすた戻ってきてから二三日は唖《おし》のようにだまって、家の軒下で竹びしゃくを作っていた。
 ある夕方、深水がきて、高島が福岡へ発つから、今夜送別会をやるといいにきて、
「ときに、例の方はどうしたい?」
 と訊《き》いたとき、三吉は、
「おれ、病気なんだ」
 と答えたきりだった。けげんな顔をしている相手にいくら説明したところで、それは無駄だと思った。
「おれ、東京へゆく」
 送別会にもでなかった高島が、福岡へ発ってしまってから、三吉は母親にそういった。
「急に、また、何でや?」
 油断《ゆだん》をつかれたように、母親はびっくりした。出発の前晩まで、母親はいろいろにくどいた。父親はだまっていたが、勿論《もちろん》賛成ではなかった。しかし三吉は、高島を福岡へおっかけよう、そこで紹介状をもらって、ボルの東京へゆこう、それだけを心のなかにきめていた――
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