白い道
徳永直

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)赤煉瓦《あかれんが》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)熊本|煙草《たばこ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)せん[#「せん」に傍点]
−−

   一

 ――ほこりっぽい、だらだらな坂道がつきるへんに、すりへった木橋がある。木橋のむこうにかわきあがった白い道路がよこぎっていて、そのまたむこうに、赤煉瓦《あかれんが》の塀と鉄の門があった。鉄の門の内側は広大な熊本|煙草《たばこ》専売局工場の構内がみえ、時計台のある中央の建物へつづく砂利道は、まだつよい夏のひざしにくるめいていて、左右には赤煉瓦の建物がいくつとなく胸を反《そ》らしている。――
 いつものように三吉は、熊本城の石垣に沿うてながい坂道をおりてきて、鉄の通用門がみえだすあたりから足どりがかわった。門はまだ閉まっているし、時計台の針は終業の五時に少し間がある。ド・ド・ド……。まだ作業中のどの建物からもあらい呼吸《いき》づかいがきこえているが、三吉は橋の上を往復したり、鉄門のまえで、背の赤んぼと一緒に嫁や
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