娘をまちかねている婆さんなぞにまじって、たっていたりする。手を背にくんで、鍵束の大きな木札をブラつかせながら、門の内側をたいくつそうに歩きまわっている守衛。いつも不機嫌でいかつくそびえている煉瓦塀、埃《ほこ》りでしろくなっている塀ぞいのポプラー――。
みんなよごれて、かわいて、たいくつであった。やがて時計台の下で電気ベルが鳴りだすと、とたんにどの建物からも職工たちがはじけでてくる。守衛はまだ門をひらかないのに、内がわはたちまち人々であふれてきた。三吉はいそいで橋をわたり、それからふたたび鉄の門へむかって歩きだす。――きょうはどのへんで逢《あ》うだろうか――。
鉄の門をおしやぶるようにして、人々は三つの流れをつくっている。二つは門前の道路を左右へ、いま一つは橋をわたって、まっすぐにこっちへ流れてくる。娘、婆さん、煙草色の作業服のままの猫背のおやじ。あっぱっぱのはだけた胸に弁当箱をおしつけて肩をゆすりながらくる内儀《かみ》さん。つれにおくれまいとして背なかにむすんだ兵児帯《へこおび》のはしをふりながらかけ足で歩く、板裏|草履《ぞうり》の小娘。「ぱっぱ女学生」と土地でいわれている彼女たち
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