ふりかえって、三吉に同意をもとめるためにふりかえる。こっちの情勢を高島に報告するのであるが、三吉は三吉で、もう今夜の演説会で、「新人会熊本支部」もおしまいだ、などと考えているのだった。
「だから、労働者グループは、いまじゃ青井君一人ぽっちですよ」
下宿の二階にあがると、古藤にかわって福原が説明している。浅川も、
「印刷工組合は、小野が上京してから、かえってアナの影響がつよくなったようだナ」
などというのを、古藤たちとおなじ年頃の高島はふりむきもせず、年長者のように、あぐらのひざに肘《ひじ》でささえた顔で、「フム」と、三吉の方だけみつめている。夕方福岡からきて、明日は鹿児島へゆき、数日後はまた熊本へもどって、古藤たちの学校で講演するというこの男は、無口で、ひどく傲岸《ごうがん》にみえた。あつい唇をむッと結んでいて、三吉はゴツンとぶつかるようなものを感じさせる。そのうち、学生たちがまだ彼の演説の内容について、ボルの革命論についてはてしなくいい争っているのに、気がつくと、高島は両手で膝をだいたまま、小さいカバンを枕にして、室のすみに犬ころのように眠っている。気分的なもの、感傷的なものなど
前へ
次へ
全39ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳永 直 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング