切りもないので、よくわからないが、しかし三吉には何かしら面白かった。ロシヤ革命とボルシェヴィキ。レーニン。ロシアの飢饉と反革命。それから鈴木文治や、アナーキズムへの攻撃。――ことに三吉には話の内容よりも、弁士自体が面白かった。右の肩で、テーブルをおすようにして、ひどい近眼らしく、ふちなしの眼鏡で天井をあおのきながら、つっかかってくる。ところどころ感動して手をたたこうと思っても、その暇がない。――われわれ労働者前衛は――というとき、歯ぎしりするようにドンドンとテェブルをたたく。
しかし、考えてみればおかしな演説会であった。工場がえりの組合員たちは、弁当箱をひざにのせたまま居眠りしているのに、学生たちは興奮して怒鳴《どな》ったりしている。ひょうきんな浅川など、弁士が壇をおりたとき、喜んでしまって、帽子を会場の天井になげあげて、ブラボー、ブラボーと踊っている。深水や高坂や、組合員たちもだんだんに帰ってしまい、演説会が終ったときは、三吉をのぞくと、学生だけであった。
「そうだな、青井」
くらい町を、高島をかこんで、古藤の下宿にもどりながら、学生たちのうしろから歩いてゆくと、ときどき、古藤が
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