だどっかには世なれない少年のようなあどけなさがあった。
「フーン、これがボルか」
 会場の楽屋で、菜《な》ッ葉《ぱ》服の胸をはだけ、両手を椅子の背中へたらしたかっこうにこしかけている長野は、一《ひ》とめみてたち上《あが》りもしなかった。長野は演説するとき、かならず菜ッ葉服を着るが、そのときは興ざめたように、中途でかえってしまった。前座には深水と高坂がしゃべった。浪花ぶし語りみたい仙台|平《ひら》の袴《はかま》をつけた深水の演説のつぎに、チョッキの胸に金ぐさりをからませた高坂が演壇にでて、永井柳太郎ばりの大アクセントで、彼の十八番《おはこ》である普通選挙のことをしゃべると、ガランとした会場がよけいめだった。演壇のまわりを、組合員と学生が五十人ばかりとりまいているほかは、ひろい公会堂の隅の方に、一般聴衆の三人五人が下足をつまんで、中腰にしゃがんでいる。そしてそんな聴衆も、高島が演壇にでてきて五分もたつと、ぶえんりょに欠伸《あくび》などしながら帰ってしまった。
 じっさい、この「東京前衛社派遣」の弁士は貧弱だった。小さいのでテーブルからやっと首だけでている。おまけにおそろしく早口で、抑揚も区
前へ 次へ
全39ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳永 直 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング