けされてしまった。
「――だからさ、だからわしは、小野がいるときから、アナだの何だの、支持したこたァないよ。そうでしょう、そうですとも。だいたい諸君は、わしのことをダラ幹だの、女郎派だのというけれどだネ、しかしだネ、じっさい労働者というもんは……」
 硝子《ガラス》戸がガタ、ガタッとあいて、怒った古藤がとびだしてきた。そして入口でせわしく下駄をつっかけると、すぐ近所の自分の下宿へ、庭づたいにかけだしていった。
「――理想はよろしい。アナでも、ボルでもけっこう。だからわしはポスターでも、会場費でも何でも提供している。しかしだね、諸君は学生だ、いいですか、いわば親のすねかじりだ。いや怒っちゃいけませんよ、しかしだネ、いざといって、諸君に何か……」
 さいごに、おとなしい福原も、だまって外へ出ていった。
「ばかづらどもが――」
 三吉がポスターをかいている板の間へ、高坂が、扇子をパチッ、パチッと鳴らせながらでてきた。むかし細川藩の国家老とか何とかいう家柄をじまんにして、高い背に黄麻の単衣《ひとえ》をきちんときている。椅子《いす》をひきずってきて腰かけながら、まだいっていたが、
「なんだ、青井
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