ニヤリと皮肉な笑いをうかべている男だった。
「ホホン、そりゃええ――」
この「ホホン」というのが小野の得意であった。小男だから、いつも相手をすくいあげるようにして、しわんだ、よく光る茶っぽい眼でみつめながら、いうのである。
「ホホン――、それでわしらの労働者を踏み台にして、未来は代議士とか大臣とかに出世なさっとだろうたい、そりゃええ」
高坂でも、長野でも、この小男の「ホホン」には真ッ赤にさせられ、キリキリ舞いさせられた。いつも板裏|草履《ぞうり》をはいて、帯のはしをだらりとさげて、それにひどい内股なので、乞食のようにみえる。それをまた意識して相手にも自分にもわざとこすりつけてゆくようなところがあったが、「ボル」が入ってきてから一層ひどくなった。
「ホホン、そりゃええ、“中央集権”で、労働者をしめあげて――」
ある晩、町のカフェーで、学生たちと論争したとき、そのときは酔ってもいたが、小野はあいてのあごの下に顔をつきだしながらいった。
「――それで、諸君が、レーニンさんになんなはっとだろうたい」
しかし、つりがねマントの学生たちは、長野や高坂と同じではなかった。“中央集権”是か非か
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