。“ブルジョア議会”の肯定と否定。“ソビエット”と“自由連合”。労働者側では小野が一人で太刀打ちしている。しかし津田はとにかく三吉が黙っているのは、よくわからぬばかりでなくて、小野の態度が極端なうたぐりと感傷とで、ときにはたわいなくさえみえてくるのが不満だった。たとえば議論の焦点がきまると、それを小野の方から飛躍させられて“そりゃァ、労働者の自由を束縛するというもんだ”という風に、手のつけようのないところへもってゆく。学生たちがそれをまた神棚から引きおろそうとして躍起になると、そのうち小野がだしぬけに“ハーイ”と、熊本弁独特のアクセントでひっぱりながらいう。
「ハーイ、わしがおふくろは専売局の便所掃除でござります。どうせ身分がちごうけん、考えもちがいましょうたい」
高わらいしながら、そのくせポロポロ涙をこぼしている小野をみると、学生たちも黙ってしまう。それで、そのつぎにくる瞬間をおそれて三吉が、小野の腕をささえてたちあがると、
「なにをいうか、労働者の感情が、きさまらにわかると思うとるかッ」
すごい顔色になって、肩ごしに灰皿をつかんでなげようとする。津田と二人で、それを止めて外へで
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