せた。それはきよらかで、芸術的でさえある気がしていた。ディーツゲンのようにえらくはないにしても、地方にいて、何の誰べぇとも知られず、生涯をささげるということは美《うつ》くしい気がした。そしてこの竹びしゃく作りなら、熊本の警察がいくら朝晩にやってこようと、くびになる怖《おそ》れがなかった。
「しかし、彼女は竹びしゃく作りの女房になってくれるだろうか?」
 そして、またそこへくると、三吉はギクリとする。鼻がたかくて、すこし頭髪のあかい、ひびくわらい声の彼女を、自分のそばのむしろに坐《すわ》らせてみることが、いかにも困難であった。パラソルをみたときのように、家のなかへとびこみたい気がする。しかし、しかし――とボト、ボトと汗を落しながら三吉は思う。彼女は理解してくれるんじゃないだろうか? 三吉はかつて彼女を「ぱっぱ女学生」などと一度も考えたことがないように、こっちが清らかでさえあれば、願いが通じるような気がする――。
「ときにな――」
 竹くずのなかにうずまって、母親は母親でさっきから考えていたらしく、きせるたばこを一服つけながら、いった。
「こないだの、あれな」
「あれって、何だよ」
 ちか
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