か?」
 といった。三吉はくらい方をむいたままうなずいた。すっかり夜になって、草すだれなどつるしたどの家も、食事どきの、ゆたかなしずかさにあふれてるようだった。
「まあ、尻を落ちつけるさ――」
 深水が、これも人はいい、のみこみ屋の単純さで、
「――こないだ、きみのおっかさんに逢《あ》ったときも、心配してござらっしゃった。三吉が東京へゆくと申しますが、あれに出てゆかれたらあとが困りますなんてなぁ、きみも長男だからね」
 などという。
「――熊連だってこまるよ。小野も津田もいなくなるし、五高の連中だって、もうすぐ卒業していってしもうしなァ。きみのような有能な人物が、熊本にとどまって、ぜひガンばってくれんことにゃ――」
 けっきょく三吉は、新婚の二人に夕めしもくわせず、夜ふけまで縁さきにこしかけていた。


   二

 家のひさし下に、ひよけのむしろをたらして、三吉は竹のひしゃくをつくっている。縄でしばった南京《ナンキン》袋の前だれをあてて、直径五寸もある大きな孟宗竹の根を両足の親指でふんまえて、桶屋がつかうせん[#「せん」に傍点]という、左右に把手《とって》のついた刃物でけずっていた。
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