って。もうシゲちゃんもそろそろ、ねェ」
三吉はくらくなってきた足もとをみていた。彼女は紙巻工であった深水の嫁さんの同僚で、深水の結婚式のとき、てつだいにきていた彼女を、三吉は顔だけみたのである。
「どうだあの子、いままで男なんかあったか?」
「そんなこと――」
くっくっと嫁さんは笑いこけている。――ないでしょう――。
その嫁さんのわらいごえが、三吉をあたためてくれるようだった。女房をもとうか? どんなに貧乏だってかまわない。ゆくゆくは子供がうんとできて、自分の両親のようになってもかまわない。――
「おれが、あの娘に話してみるか?」
うしろで、夫婦が相談はじめている。
「それともお前がきいてみるか?」
「そうね」
「どっちにせ、青井の奴《やつ》ァ、三年たっても自分じゃいえない男だから」
それでまた夫婦がわらい声をたててから、こんどは急に気がついたふうに嫁さんは、顔をかくしていたうちわを離すと、
「ね、青井さん」
三吉があわてて電灯の灯の方へ顔をむけると、気のいい人の要慎《ようじん》なさで、白粉《おしろい》の匂《にお》いと一緒に顔をくっつけながら、
「あなたは、それでいいんです
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