ガリ、ガリ、ガリッ……。金ぞくのようにかたい竹のふしは、ときどきせん[#「せん」に傍点]をはねかえしてからすべりすると、雨だれのような汗がボト、ボトとまえに落ちる。――
せまい熊本市で、三吉も「喰《く》いつめた」一人であった。新聞社でストライキに加わって解雇され、発電所で「労働問題演説会」を主催した一人だというので検挙され、印刷工組合の組織に参加すると、もう有名になってしまって、雇ってくれるところがなくなっていた。仲間の小野は東京へ出奔《しゅっぽん》したし、いま一人の津田は福岡のゴロ新聞社にころがりこんで、ちかごろは袴《はかま》をはいて歩いているという噂《うわさ》であった。五高の連中も新人会支部のかぎりでは活動したが、組合のことには手をださなかった。ことに高坂や長野は、学生たちを子供あつかいにした。彼らは三吉らより五つ六つ年輩でもあり、土地の顔役でもあって、普通選挙法実施の見透《みとお》しがいよいよ明らかに[#「明らかに」は底本では「朋らかに」]なると、露骨に彼ら流儀の「議会主義」へとすすんでいた。
「竹びしゃくなんかつくらんでも、わしが工場ではたらくがええ」
高坂がそういってくれ
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