の立ち罩《こ》めている桶《おけ》の中へ突っ込んでいる。
「おい止《よ》せよ、女の眼前《まえ》で、そんなの脱がすのは止せよ」
「止せたって……、おいお前たち、女の人は、一寸《ちょっと》向うを向いててくれないか」
「アッハハハハ」
「オッホホホ」
 男も女も、ドッと哄笑《こうしょう》する。
「どうしたんだろうね、何なの?」
 お初は、利平にそっという。しかし利平は黙って答えないが、いうまでもなく、それは今朝《けさ》、留置場から放免されて帰って来た争議団員たちを、他の者たちが歓迎しているのだ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
 利平は驚いた。暗い処《ところ》に数十日をぶち込まれた筈《はず》の彼等の、顔色の何処《どこ》にそんな憂色があるか! 欣然《きんぜん》と、恰《あたか》も、凱旋《がいせん》した兵卒のようではないか! ……迎えるものも、迎えらるるものも、この晴れ晴れした哄笑《こうしょう》はどうだ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
 暖かい、冬の朝暾《あさひ》を映して、若い力の裡《うち》に動いている何物かが、利平を撃った。縁端《えんばた》にずらり並んだ数十の裸形《らぎょう》は、その一人が低く歌い出
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