奴らどんな顔するだろう。
 彼は、何だか、眼前《めさき》が急に明るくなったように感じられた。腹心の、子飼《こがい》の弟子ともいうべき子分達に、一人残らず背かれたことは、彼にとって此上《このうえ》ない淋《さび》しいことであった。川村にしても、高橋にしても、斎藤にしても、小野にしても、其他《そのた》十数人の、彼を支持する有力な子分は、皆組合の手に奪われてしまったのだ。
 それを、いま自分が、争議中の一切の恨《うらみ》を水に流して、自ら貰い下げに行くことは、どれだけ彼らに大きな影響を与えることだろう。
 まだ組合なんか無かった頃の、皆|可愛《かわい》い子分達の中心に、大きく坐って、祝杯などを挙げた当時のことなどが、彼に甦《よみがえ》って来た。
「そんな、ひどい目に遭わしたのか?」
 利平は、蒲団の上へ、そろそろと、起き上った。
「だってさ」
 女房は、すこし、不審《いぶ》かしそうに、利平の顔を見た。
「かまやしないじゃないの、あんな恩知らずだもの」
「ウム、そりゃそうだが!」
 彼は、女房の手を離れて、這《は》い出して来た五人目の女の児《こ》を、片手であやしながら、窓障子の隙《すき》から見え
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